「いのちをはぐくむ農と食」(小泉武夫)

農業は決して魅力を失ってはいない

「いのちをはぐくむ農と食」
 (小泉武夫)岩波ジュニア新書

「農業では食っていけない」。
農村部の中学校に勤務していた頃、
PTAなどの機会に保護者の方から
よくそんな話を聞きました。
日本の農業が危機に瀕している。
私はそれを実感として感じていました。

そんな日本の農業の危機的状況を
詳しく解説してあるのが本書です。
日本の農と食の
未来を考える意図で著されています。
しかし私は本書を、
「農業」という職業の
重要性とやりがいを、
子どもたちに伝える書として
捉えたいと思うのです。

第1章「日本の農業は崖っぷちにある」
日本の農業政策が
他国と比べて貧弱である実態を
取り上げています。
日本の農業が脆弱であるのは、
適切な政策が
施されていないからだったのです。

第2章「食料生産を外国に委ねたら」
国際分業という
経済学の概念でのみ食を考えていくと、
大変なことになると著者は訴えます。
農業はその国の生命線なのです。

第3章「農業を活性化するために」
大山町農協、北海道農政部、
三重県立相可高校などの
意欲的な取り組みを紹介しています。
特に高校生の挑戦からは、
農業にはまだまだ大きな
可能性があることを感じさせられます。

第3章まで読むと、
農業という職業の重要性に
改めて気付かされるはずです。
ぜひ中学生に
読んで欲しいと思うのです。
ともすれば「暗い」「汚い」などという
誤った先入観で
語られることの多い農業ですが、
「日本の未来を背負っている
やりがいのある職業」というイメージを、
子どもたちには持って欲しいと
願っています。

自分が公務員という
安定した職業に就いていながら、
子どもたちに「農業もいいよ」と
安易なことは言いにくいのですが、
総合的な学習の時間の中で、
私なりに農業の重要性には
触れてきたつもりです。

多くの学校で、中学校2年生の段階で
職場体験を行っていますが、
私はいつも農業体験に振り替えて
実施しています
(通常の職業体験は
地元のサービス業が多い)。
農業体験ではどの子も
生き生きと取り組んでいます。
農業は決して
魅力を失ってはいないのです。
子どもたちが将来、農業を
職業の選択肢の一つとできるよう、
私たち大人が
もっともっと行政に働きかけ、
その環境整備をしていかなければ
ならないのだと思います。

※参考までに
 第4章 食べるものが変わった
 第5章 食べ物を選ぶ基準
 第6章 地産地消と食育

 日本人の和食離れ、洋食化に
 警告を発するとともに、
 「安い」という経済的な物差しだけで
 食を語ることの危険性を
 指摘しています。そして、
 地産地消がその解決のための
 一つの解答であることも
 説明しています。

(2018.11.16)

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